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伝統左官が紡ぐ、時を超えた意匠の再生

川越市文化創造インキュベーション施設「コエトコ」は、指定有形文化財・歴史的風致形成建造物である旧川越織物市場と旧栄養食配給所を復元し、2024年春に誕生しました。
これからの川越の未来をつくる新しいクリエイターの育成支援や、地域と連携した創造的活動の推進を行っているほか、誰もが立ち寄れる展示室やカフェも備えられています。

その一角にある、昭和初期に女工たちの健康を支える共同炊事場として建てられた「旧栄養食配給所」。
繊維工場などで働く女性たちの労働環境を改善するため、栄養管理を重視し、バランスの取れた食事を提供する目的で、昭和9年(1934)に設立されました。この建物は、当時の社会的背景を映し出す貴重な産業遺産であり、平成17年(2005)には川越市の指定有形文化財に、さらに平成27年(2015)には歴史的風致形成建造物にも指定されています。
その歴史と文化的価値を未来につなぐべく、建物の復元をご依頼いただきました。

竹小舞組や荒壁塗りなどの伝統的な工法を再現するため、荒木田土・藁・サイザル麻など全国各地の素材を厳選し、練り上げた土を職人ビレッジから150kmかけて陸送。看板や壁面の洗い出し仕上げも、現在の色味にあわせて配合を調整し、時間の蓄積を感じさせる風合いになりました。

CUSTOMER REQUEST

お客様からのご要望

「旧栄養食配給所」の看板、内装、竈門の復元リノベーションをお願いしたいです。

PROPOSAL

壁の匠からのご提案

埼玉県川越市に現存する歴史的建造物「旧栄養食配給所(通称:コエトコ)」。昭和初期、繊維工場などで働く女工たちの栄養管理と生活向上を目的として設立された共同炊事場であり、地域に根ざした文化的価値を今に伝える貴重な建物です。


その価値を損なうことなく、数社による提案の中から、素材への姿勢・技術への誠実な取り組みに共感いただいたオーナー様より、弊社にお声がけいただきました。


建物の意匠を忠実に再現すべく、素材は各地から吟味し、竹材や棕櫚縄は奈良県・滋賀県から、荒木田土は埼玉県深谷市から取り寄せ、藁・すさ・サイザル麻なども、用途・配合比率に応じて選定。


歴史と地域の記憶を継承する建築であることを重んじながら、素材・工程の一つひとつに敬意を払い、復元いたします。

地域 川越市
工期 約8ヶ月
使用商材・建材 深谷配合粘土工業:荒木田土
村樫石灰工業:棕櫚縄
UNDER CONSTRUCTION

施工中

お打ち合わせ

ご依頼後、建物の状態を把握すべく、解体現場や保管部材を複数回視察。現地に足を運び、使用資材の選定や構想について綿密な打ち合わせを重ねました。

資材調達

建物の意匠を忠実に再現すべく、材料には藁・すさ・サイザル麻・中塗り土・砂等を調達。竹材・棕櫚縄は村樫石灰工業から、荒木田土は深谷配合粘土工業より調達。信頼できる左官職人と協力し、各地から取り揃えました。

資材陸送・調合

素材は敷地に限りがあったため、職人ビレッジにて土を練り上げ、最良の状態で150km離れた現場まで陸送。当日の気候や湿度に応じて配合を調整し、安定した品質を追求しました。

荒壁塗り

手練りした荒木田土に藁やすさ、サイザル麻を絶妙な比率で配合。呼吸性と密着性に優れたこの荒土を、竹小舞に丁寧に塗り重ねていきます。層ごとに乾燥の時間を設け、素材の特性を活かしながら、強靭で安定した下地を築き上げました。

墨出し・チリ塗り

線と面の整合を精緻に整えるため、ミリ単位で墨出し・チリ塗りを実施。上塗りの美しさを引き立てる、左官の品格を支える重要な工程です。

色合わせ・看板設置

微調整を重ねた配合比率でねずみ漆喰の色を調整。保存されていた看板部材と色味を合わせ、丁寧に設置。既存の建物との調和を図ります。

壁面洗い出し・エイジング

入口部分は、洗い出しとエイジング仕上げを施すことで、往時の趣を再現しました。

竈門復元

調理の象徴であるレンガ組積の竈門には、モルタルを用いて造作し復元しました。既存の形状と佇まいに寄り添いながら、美しさと耐久性を両立させました。

AFTER

施工後

外観・看板

正面に掲げられた看板まわりには、通気性と調湿性に優れたねずみ漆喰を用い、既存部との調和を図りながらも、重厚で品格ある印象に。
骨材の粒度や配合を緻密に調整し、文字が自然な光にふっと浮かび上がるような陰影を目指しました。

展示ブース

竈門の復元には、当時の赤煉瓦の断熱性と素材感を活かしつつ、強度と平滑性に優れたモルタルで天板を造作。角の面取りや水平ラインの整えにより、実用性と保存性の両立を図り、竈門本来の力強さに整然とした佇まいを添えました。素材の呼吸、熱を蓄える力、肌ざわり。そういったものをひとつひとつ確かめながら、左官仕上げを施しました。

カフェスペース

地域の憩いの場として佇むカフェスペースの内装は、中塗りから漆喰仕上げまで、昔ながらの左官の手順をひとつひとつ踏んで仕上げています。
漆喰特有の微細な気泡構造が光を柔らかく拡散し、空間に柔和な明るさと静謐な奥行きをもたらし、格子窓や濃色の木部との美しい対比が建築の構成美を引き立てています。

CONTENTS

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